シャワー理論の存在について

 竹村おひたしです。


 いつのまにかおぼえている単語ってありますよね。

〝シュクメルリ〟とか、〝マリトッツォ〟とか、〝アストラゼネカ〟とか。

 意識的に覚えようとしていようがしていまいが、何度も耳にしている言葉は、そのうち勝手におぼえてしまうものです。


 むかし予備校で教わったのですけれど、この現象は「シャワー理論」と呼ばれているのだそうです。

 シャワーの下にコップを置いておくと、ほとんどの水はコップの外に流れていってしまうけれど、コップの中にも確実にたまっていく…とかいう説明でした。

 覚えたいものは、シャワーのようにたくさん自分に浴びせることがだいじ。そのほとんどが流れ出ていってしまっても、いくらかは身についてくる。


 この話はストンと腑に落ちたうえ、その後もいろいろな場面で役に立ちました。

 「努力はかならず報われるかどうかは不明だけど、報われる部分はいくらかある」と考えることで、なにかと前向きに取り組むことができたのです。

 もしシャワー理論を知らなければ、「できるようになる気がしないことは、がんばっても無駄にちがいない」とデッド・オア・アライブ思想に心を支配され、やらないうちからあきらめてしまうことが多くあったと思うのです。


 それからだいぶ月日が流れたいま、ふと「シャワー理論」というものを正式に知っておこうと思いたち、インターネッツ先生にたずねてみました。


 すると、そんな理論はいっさい出てきませんでした。


 単語を変えてみたり、説明文にふくまれる言葉を予測したりしてあれこれ検索してみたのですけれど、ぜんぜんそれらしい話が見当たらないのです。


 自分の記憶ちがいだったのでしょうか。それとも、聞き逃していたけれど、教えてくれた予備校講師の方(社会人から出戻ったという30代の大学生でした)が独自にこしらえた持論だったのでしょうか。 

 なんだかキツネにつままれたような気分になりました。


 まだまだ暑い日が続きますので、どちらさまもご自愛くださいね。


竹村おひたし

illustrator Takemura Ohitashi